ソニー・クラーク / COOL STRUTTIN` (1958年)
1957年フォード・サンダーバード (暫定、合致確率80%)
モダンジャズ、あるいはブルーノートの代表作品と言ってよいソニー:クラークのリーダー作品。このアルバムアートは一度見たら忘れない。このアルバムでモダン・ジャズの世界に引き込まれた人も多いに違いない。
ジャケット写真の撮影はブルーノートレーベルの共同創設者ウォルター・ウルフ。モデルの女性は代表・アルフレッド・ライオンの妻ルーズ・ライオン。デザインはブルーノート作品のほぼすべてを手掛けるリード・マイルス。都会的センスにあふれるモノトーンの写真。もはや何も言う事はない。
このアルバムアートを価値あるものにしている無言の立役者が歩道の向こう側に佇む白いクルマだ。ふつうはスリット・スカートとハイヒールの上品な女性の足元に目が行くものだが、このクルマのきわめて低いボンネットに目を奪われる。タイヤのまわりをぐるりと切り抜くホイールアーチの高さに対して上の部分はその1/3くらいしかない。当時のクルマとしては驚くべき低さだ。
クルマのサイドは完全にフラットで、モールすらついていないクリーンな造形、きわめて現代的でスポーティーなクルマだ。まだずんぐりしたあか抜けないクルマが主流のこの時代、もしそんな古めかしいクルマだったらこのアルバムの印象は違っていたかもしれない。
写真に写っている部分だけから判定すると、このクルマは1955年に登場した初代・フォード・サンダーバードである可能性が高い。アメリカ車発のスポーツカーだ。ホイールアーチの形状、タイヤとボンネット高の比率はほぼ一致する。ところが話はそう簡単には終わらないのであった。
このアルバムは日本で特別に評価が高い。哀愁を帯びたマイナー調のフレーズと、もちろんこの洒落たアルバムジャケットもその要因だろう。時代を経て1998年、アルバム録音40周年の年に日本のジャズ評論家、プロデューサーの行方均氏はファンのために未発表曲とコネチカットで発見した当時のフォトセッション作品をとりまとめて記念アルバムをリリースした。その中にこのクルマのやや前方がかすかに写り込んだショットがある。断定はできないが前方の車と比べて異様に低い車高から同じクルマと推定できる。しかしフロントの造形がサンダーバードとは大きく異なる。
このショットには、当時のフォルクスワーゲンに見られるダブルバンパーのようなものが見える。アメリカの規制にあわせてバンパーを2段にしたものだが、もしこれがダブルバンパーならヨーロッパ車ということになる。そして驚くべきことにホイールアーチの形状と薄いボンネットの寸法は1955年に登場した初代フォルクスワーゲン・カルマンギアとほぼ一致するのだ。
確かに各部寸法比率からはカルマンギアの可能性が見て取れるのだが、アルバム写真のたたずまいは何か少し違う気がする。カルマンギヤ特有の丸みをおびたフェンダーの雰囲気が感じらないのだ。ダブルバンパーのディティールも少し違うかもしれない。
数多くの当時のアメリカ車のスタイルをチェックしたが、これほど低くこれほどシンプルなクルマは他にはなかなか見当たらない。「別ショット写真」は撮影ポイントは同じであることは間違いないが、クルマは入れ替わっているかもしれない。もう少しリサーチを続ければ完璧にマッチするクルマが見つかるのかもしれない。
というわけで、現時点ではこのシリーズ唯一の車種未確定、とする。
音楽のすばらしさは言うまでもない。ハードバップの魅力にあふれ、ブルージーな雰囲気も漂うこの作品はジャズ入門として愛聴されているのは良く分かる。これからジャズを聴きたいという人には今でもおすすめできる一枚だ。
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