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2020-01-31

B.J.トーマス/Reunion(1975年)

ビュイック・スペシャル 1953年型

このアルバムの1曲目は「(Hey Won’t You Play) Another Somebody Done Somebody Wrong Song」。とても長いタイトルだ。邦題は「心にひびく愛の歌」。これは名訳と言ってよい。

1975年は全米ヒットチャートに歴史に残る名曲が数多く登場した特別な年だ。イーグルスの「呪われた夜 One of These Nights」はこの年のヒットだが、キャプテン&テニール「愛ある限り Love Will Keep Us Together」、ミニー・リパートン「 Lovin’ You 」、、ヴァン・マッコイの「The Hustle」もこの年だ。まさにアメリカンポップミュージックの輝ける時代、75年はその中でも特に輝いた年だった。大学受験を控えた高校3年の春はB.J.トーマスのこの曲でスタートした。勉強そっちのけでラジオでビルボードTOP40に熱中していた暑い夏がよみがえる。この年はランブイエで最初のサミットが開かれ、サイゴン陥落でベトナム戦争が終結した年でもある。日本も猛烈な勢いがあった時代でもある。

B.J.トーマスには「雨にぬれても・Raindrops Keep Fallin’ on My Head)」の大ヒットがある。1970年、ポール・ニューマンとスティーブ・マックイーン主演、アメリカンシネマの代表作「明日に向かって撃て」の主題歌だ。彼のひじょうに印象的な声はこの映画と不可分のものとして多くの人の記憶に残っているはずだ。当時彼はひどい喉頭炎で、ギリギリのところでそれが奏功したようだ。この曲はバート・バカラックの代表曲でもある。「心にのひびく愛の歌」は知らなくても彼の声はどこかで聴いているはずだ。

このアルバムの録音はテネシー州ナッシュビルのAmerican Studio。セピア色にかすれたジャケット写真は南部・チャールトン郊外の広大な農園、ブーンホールプランテーションで撮影されている。アメリカ建国まで遡る歴史あるプランテーションだ。登場するクルマはビュイック・スタンダート1953年型。1948年に完全に戦後設計にモデルチェンジしたフルサイズのクルマで、当時の最も売れたクルマの一つだ。時代を代表するモデルと言ってよい。このクルマは1958年まで約10年間にわたって製造されていて年式の特定が難しいが、アマチュアのカメラマンとして自ら撮影した戦後のクルマの写真を数多く発表している 浅井貞彦さんのWEBページにより、丸いスピナーがバンパーに埋め込まれ、中央部に丸い装飾があるのは1953年型と特定できる。撮影時点では22年落ちということになり、そこそこ古い が街中で見かけてもまだ驚かない、ちょっとなつかしいクルマという感覚であろう。

ご機嫌な様子でボンネットに横たわるB.J。バックの木におおわれた広い道路とのアングルが絶妙で、少し記念写真っぽく見えるけれどなかなか魅力的な写真だ。アメリカンなフィーリングにあふれているセピア色の色あせたトーンは雰囲気があり、アルバムの曲調とも合っているようにも思うがちょっと待て。よく見るとクルマはボロボロ。フロントグリルの右上のクロムは引きちぎれ、バンパー内のスピナーの先端はつぶれている。写真右下の砂の上に無数のタイヤの跡があるが、何度も切り替えして位置決めした痕跡に違いない。思わず大笑い。このころ彼はドラッグで一番苦しんでいた時期でもある、もしかするとロケーションだけにはこだわって、ちょっと懐かしめクルマ置いて、サッと撮って細かいところは見ないでね、ということかもしれない。想像が広がる。ここでもクルマは多くのことを語る。

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