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2020-02-08

ジャクソン・ブラウン/LAWERS IN LOVE (1983年)

メルセデス・ベンツ W123シリーズ(1976~85)

衝撃的なアルバムジャケット。彼は誰なのか、ここはどこなのか。なぜ水に浮いているのか、なぜここにいるのか。どこへ向かおうとしているのか、、

アルバムタイトルと同名の1曲目「愛の弁護士 (Lawyers in love)」は1983年に大ヒット。全米13位を記録。ジャクソン・ブラウンのポップ路線炸裂で、これは間違いなくヒットする、という佳曲だ。ドラムはラス・カンケル。ギターはフリートウッドマックのリック・ヴイートと強力だ。

ヤッピー風スタイルの弁護士は何とウィッグをかぶったジャクソン・ブラウン自身だ。「ヤッピー」とはまさにこの時期に一世を風靡した流行語で、当時やたらに目につきはじめた大都会で活躍する若いヤング・エリートを皮肉る言葉だ。ヤッピーにとって「クルマ」は自己表現の重要なアイテムで、このメルセデスW123はその代表と言える。音楽とクルマへの愛を語るこのシリーズにあって唯一このジャケットのクルマには愛が感じられない。単なるアクセサリーだ。このアルバムを取り上げるべきかは少し迷ったが、インパクトの大きいこのアルバムは外すわけにはいかないだろう、と思った。

大きな月と大都会と水上をさまようメルセデス、そしてヤッピー弁護士。彼はこのモチーフがたいへん気に入っているようでジャケットのみならずレーベル面やプロモーションビデオにもくりかえし登場させている。しかし彼がこのモチーフで何を言いたいのかは、実は良く分からない。歌詞を読んでもプロモーションビデをを見ても最初の疑問には全く答えられない。「月」も「水」も「ボート」も「オール」にもどこでも触れられていない。

このアルバムは初期からの熱心なジャクソン・ブラウンのファンにはひじょうに評判が悪いそうだ。ナイーブなシンガー・ソングライターからポップなロック路線への音楽性の変節。そして今までにない社会風刺的なメッセージ~しかもそれが残念ながら中途半端。この曲には明確に当時のドナルド・レーガンに対する風刺がある。政権第1期でソビエトを「悪の帝国」と名指しし、スターウォーズ計画を推進していた時期だ。ブラウンは第三次世界大戦が待ち受けている、とリフレインで叫ぶ。そしてソビエトの崩壊と西側への開放を予言し、そこは「愛の弁護士」たちのリゾート地になると歌っている。実に見事な予測ではあるが、歌詞全体では間接的な表現が多くて意味が取りにくく、印象は散漫だ。

結局のところ、ジャケット写真の意味するところはよく分からない。日本語のアルバムタイトルは「愛の使者」だが、これは全く意味が通じない。訳した人も良く分からなかったのだろう。ジャクソン・ブラウンはヤッピー弁護士を主人公としたこのような絵画風のイメージを思いつき、それを大変気に入った、ということなのだろう。彼は別の場所で「この曲の社会風刺のメッセージは思ったように伝わらなかった」と語っている。実はあまり深く考えずにイメージが先行していた~つまり単純な思い付き?~だったのかもしれない。

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