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2020-06-21

ボズ・スキャッグス / COME ON HOME (1997年)

キャデラック・シリーズ62 1959年型

ボズ・スキャッグスは寡作なアーティストだ。ポップ路線で大成功した「Silk Degrees」のあと4枚アルバムを出して、そのあとは本当に自分にやりたいの音楽だけをやるようになる。これはその最初の作品、彼の音楽の根幹にあるリズム&ブルースを全面に出したアルバムだ。彼はこの路線を進め、6年後の2003年にはすべてのレコード会社との契約を終了させ、サンフランシスコに小さな自分専用のスタジオを作り、自分のレーベルでスタンダートナンバーをそのままタイトルにしたジャズ・ヴォーカルアルバム「But Beautiful」をリリースする。その後もマイペースだ。

モノクロームのジャケット写真。クルマはキャデラック1959年型。巨大なテールフィンと、トランクが開けっ放しになっているのが良く見えるように少し彩度を上げて明るく修正した。凝ったアートワークだが多くの要素がちりばめられていて少々散漫な印象だ。オリジナルのトーンは暗く細部が良く見えない。ここはハーレムなのか南部の都市なのか、彼が写っている背景のダンス・コンサートのポスターからは読み取れない。アートディレクションはミック・ハガティー。70年代後半から80年代にかけて数多くの有名なアルバムのデザインを手掛けているデザイナーだ。

1959年型キャデラックは特別なクルマだ。キャデラックがジェット機を連想させるテールフィンを登場させたのが1955年モデル。これは自動車スタイリングにとっての大事件だった。あっという間に世の中を席捲し、あろうことかメルセデスベンツまでは採用するに至ったが、写真にある1959年型でその威容がピークに達したと同時に、翌年には突然終息を迎える。59年はテールフィン最後の年であり、古き良きアメリカ文化の象徴でもある。バックのポスターの50年代風のポートレート写真と時代がぴったり合っているのだ。

泥臭いギターとハモンドのイントロで始まるこのアルバムは、ブルース・フィーリングにあふれている。ボズ・スキャッグスと言えば「We are all alone」のハイトーンの洗練されたボーカル、というイメージが強いが、それは彼の一面だ。このアルバムの14曲中オリジナルは4曲だけ。あとはスタンダートのカバーだ。リリース当時にこのアルバムを聴いた人は思わぬ路線変更に戸惑ったことだろう。しかしこれを聴いたあとで10年前の超ベストセラーアルバム「Silk Degrees」を聴くとアルバム全体を覆うブルース色に改めて驚くはずだ。彼は「変わった」わけではないのだ。ストリーミングでは彼の主要作品をすべて聴くことができる。あえて逆順で聴いてみると面白いかもしれない。

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