浜田省吾/愛の世代の前に (1981年)
フォード・サンダーバード 第1世代(Little Birds) 1956年
20回を超えたこのシリーズにジャクソン・ブラウンの作品が2回登場したことでこのアルバムの登場を予感した人もいるかもしれない。浜田省吾1982年作品「愛の世代の前に」。彼が深くジャクソン・ブラウンを敬愛し、このジャケットがアルバム「Late For The Sky」へのオマージュであることは広く知られている。アート・ディレクションは80年から浜田省吾作品のジャケットをすべて手掛けている田島照久氏。尾崎豊のジャケットでも知られているアーティストだ。
このアルバムは翌年82年1月に控えた武道館コンサートの直前にレコーディングされチャートの12位にランキングされるヒット作品となったが、10年後の92年に収録曲「悲しみは雪のように」がテレビドラマ主題歌に採用されリバイバルヒット。この時には最高位2位、10週連続トップ10という記録を達成し、累計でミリオンセラーを果たす。まさに彼の代表作の1つとなった。ちょうど武道館コンサートの年に勤務していた会社の新入社員として広島に赴任し、ビッグアーティストへの階段を上り始めた「浜省」への地元広島の皆さんの熱い思いに間近に接している。才能あふれるシンガーソングライターだ。
まるで模型のように見える美しいフォード・サンダーバード。サンダーバードは1950年代初頭にシボレー・コルベットとともに登場したアメリカン・スポーツカーの原点だ。特徴的なルーフ後方の丸い窓は後方視界確保のために1956年型から装着されるようになった。フロンドドアと前タイヤに間に走行中に外部の空気を導入する小さなドアが付いているのもこの年のモデルの特徴だ。サンダーバードは2シーター・オープンが基本スタイルで、丸い窓のついたFRP製のハードトップは標準装備で脱着が可能。だたし大きく重く、一人では外すことはできない。
自らがイメージの元となったと語るジャクソン・ブラウンのアルバム「Late for the sky」のクルマは平凡なベストセラー・ファミリーカーのシボレー・ベルエア。色は地味なグレーに近い白に対してこちらは真っ赤な歴史的スポーツカー。クルマの向きは反対。ジャクソン・ブラウンは雲にこだわったグラフィックだがこちらは全く雲のない、より暗いトーン。これから家を出発しようという状況に対して、こちらは砂浜のようにも見える道なき道の、、、とオマージュといいながら実は表現している世界観はずいぶん違う。似ていないのだ。浜田省吾は一つ一つの要素に意味を込めて、Late for the skyを下敷きにして何かを伝えようとしている。
サンダーバードがまるで精密な模型のように見えるのは、快晴の砂浜で撮影した写真と背景を合成したためで質感が異なって見える。クルマの向きが反対にして左ハンドルの運転席をリアルに見せないようにして現実感を消し去る。人のいない運転席や、砂に残るであろう足跡はイメージを膨らますノイズだ。クルマのうしろには確かに走ってきた轍、右側はまっさらな砂。これから彼は最高性能のスポーツカーで道なき世界を疾走する。想像は膨らむ。
ちなみにアルバムの内ジャケットには3世代あと、1964年登場のサンダーバード第4世代、通称「フレアーバード」のダッシュボードの写真が掲載されている。このモデルはフォードの独自技術「スイング・アウェイ・ステアリングホイール」といって、乗降性を良くするためにハンドルを左右にスライドさせる機能が搭載されている。改めて写真を見るとハンドルが異様なほどセンター側にシフトしているのが分かる。運転する時は正面に戻すのだ。サンダーバードではつながっているが、ジャケットとの関連はわからない。
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