ベルリン・フィルハーモニー・ホルン・カルテット / FOUR CORNERS ! (2011年)
ローバー・ミニ・メイフェア (1986~92年)
このアルバムはベルリン・フィルハーモニーのホルン奏者による四重奏団の作品だ。ホルンの素朴な響きは金管楽器とは思えないほど柔らかく心癒される。ホルンはその名が示すように角笛(つのぶえ)を起源に持つ原初的な楽器だ。そのサウンドには他の楽器に比べて特別に倍音成分(ハーモニックス)が多く含まれていて、心地よく耳に入る。木管楽器との調和もすばらしい。
同じ金管楽器でもトランペットのような華やかさとは無縁な、一見地味な存在に見えるが、多くの作曲家がホルンのために実に多くの作品を残している。モーツァルトの協奏曲、中でも著名な1番、3番。不慮の事故で命を失った名手デニス・ブレインの1953年の録音は歴史に残る名演だ。ベートーヴェンやマーラーの多くのシンフォニーでも重要な役割を果たしているが、印象的なのはブラームスの交響曲1番。その4楽章の序章に続く堂々たるホルン独奏は、奏者の緊張を思うと聴くたびに手に汗を握る。この1か所が曲全体の出来を決めかねない重要ポイントだ。このホルンのフレーズは堅物のブラームスがクララ・シューマンへの想いを表現したものだという。
このカルテットはたいへんな人気で、世界中にツアーに出かけている。日本にも何度も来ているが、今年6月から7月に予定されていた来日公演は残念ながらCOVIDの影響で中止とななった。世界中のコンサートでのアンコール・ピース22曲を集めたのがこのアルバム。録音はベルリン・フィルハーモニー室内楽ホール、とても響きの美しい優秀録音だ。楽器は4人とも名門アレキサンダー社のModel 103を使用している
いかにも生真面目な面々が、頑張って、楽しませようとさまざま工夫している姿が楽しい。本当に音楽とホルンが好きなのだと思う。最後のブラームスの子守歌では一人ずつ去っていく足音が聞こえ最後一人になる演出が楽しいが、このアルバムで一番興味を引かれるのはそのあとの無音部の後に隠されているNG集。失敗した演奏や楽しそうな会話が入っているが、ホルンは息を吹き込む吹奏楽器。渾身の力で息を吹き込み、音程も取りにくく、たいへんな集中力が必要なことが改めてわかる。楽器を演奏できない身には普段は意識することが出来ないことを思い至らせてくれるすばらしい仕掛けだ。
クルマはほぼ最終型のローバー・ミニ・メイフェア。今では当たり前のエンジン横置き前輪駆動の元祖。小さきけれど車内はびっくりするほど広い。1959年から延々と作り続けられたこのクルマはヨーロッパの小型車を代表するクラシックだ。大きなスーツケースと演奏楽器を縛り付けてこれから4人で世界中を旅をする。もちろんこんな状態では道路は走れないのだが、いかにも生真面目に作り込まれた感じがあふれるこのアルバム・アートもまた彼ららしくて良い。
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