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2020-08-08

ドン・ヘンリー / CASS COUNTY (2015年)

シボレー・アドバンスド・デザイン (~1953年)

参った。恐れ入った。これは68才のドンヘンリーが故郷のテキサスに籠り、自分の原点に立ち戻った作品。音楽に限らず「原点」、と銘打つ作品は世に多いが、原点にとどまっていたら世には出られなかった可能性は高いものだ。ドン・ヘンリーにしても世界中のスタジアムを常に満席にするスーパースターの地位は手に入れることはできなかったはずだ。原点に忠実、ということは商業的成功とは相反する概念だ。本当の意味で原点に立ち戻れるのが彼、いや彼のような絶対的な成功がなければ文字通りの原点に戻ることはできないような気がする。全編テキサスの土の香りあふれるカントリー・ロック。ヒットチャートとは無縁。シングルカット無し。セールスやメディアの評価は最初から考えていないだろう。ずるい、と言ったら言葉が悪いが、まさに彼にしかできないことだ。

この作品の録音はすべてテキサスか、その隣のテネシー州で行われた。LAやニューヨークのスタジオの名前は出てこない。ドン・ヘンリーはボーカルに専念して、どの曲でもドラムには手を触れない。渋いカントリー・ロック。しかしその洗練度は今まで聞いたことがないほど高い。何といってもあのドン・ヘンリーだ。バックバンドの演奏技量はパーフェクト。そしてオーディオ的な意味でのサウンド・クォリティ~音質~もすばらしい。ぜいたくな機材と最高のエンジニアリングが施されているのだろう。8曲目、伝説のカントリーバンド The Louvin Brothersの「WHEN I STOP DREAMING」。彼が8歳の時のヒット曲だ。信じられないような優しい声に引き込まれる。彼はこんな歌い方もできるか。ジャケットの写真の眼光は若い時と同じように鋭いのに。彼はこの曲で幼い日に戻ったのだろうか。

アルバム・タイトルの「CASS COIUTY」 (カス郡)は故郷の小さな郡の名前だ。「CASS」は上院議員ルイ・カスにちなんだ人名だ。テキサスはもともとメキシコに属していたがテキサス共和国として独立し、その後アメリカに28番目の州として加盟する。その際に尽力したのがルイ・カス。アメリカの歴史はスリリングだ。アメリカには同じくルイ・カスの名前にちなんだ「カス郡」が8つあるという。

大きな三角窓と室内後方に窓が見えるクルマは50年代~60年代のアメリカのピックアップ・トラックであることはすぐわかるが、車種の特定が難しい。しかし幸いなことに公式WEBページ donhenly.comにインスツルメント・パネルが写る車内の写真がある。クルマの計器盤は外観以上に車種や年式の特定に役立つが、この写真によりクルマは1953年以前のGM・シボレーのアドバンスト・デザインであると分る。シボレーの戦後初の新設計のベストセラーの中型トラックで、アメリカ中の農場や牧場を走り回っていたはずだ。このクルマは彼が所有するクルマではないと思うが、とてもきれいにレストアされている。ノーステキサス大学を出て23才でロスアンゼルスに向かうまで過ごしたテキサスで、幼いころから見慣れた懐かしいクルマであることは想像できる。ここでもクルマは静かに語る。

PHOTO : https://www.donhenley.com/
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