ビートルズ/ABBY ROAD (1969年)
VW Type1 ビートル68年型
9月下旬より毎週末に掲載してきた「Car and Music」も今回で14回目。年内最終は少し迷ってビートルズ。ポピュラーミュージックを代表するアルバムだ。このアルバムは相当迷った。あまりにも有名、あまりにも愛聴者の多いアルバムで発売以来40年にわたり多くのことが語られすぎている、そして何よりビートルズの4人はクルマにはほとんど関心を持たない。ふつうなら真っ先に選んで良いアルバムだが、少しひねくれた感情もある。このフォルクスワーゲンは音楽を語るのか。しかし、まあ一つの区切りということで(よく分からないが)改めてジャケット写真を眺めてみよう。
この写真の撮影は1969年の8月8日。カメラマンはイアン・マクラミン。カメラはスウェーデンの6×6版一眼レフ・ハッセルブラッド。レンズはディスタゴン50mmF4。35ミリ換算だと27mm相当の広角になる。美しい構図だ。当日はスタジオ前の道路を30分通行止めにしてメンバーは横断歩道を6回横断した。
左上のフォルクスワーゲン・ビートルはスタジオの隣に住む住人のもので68年型の新車。テールランプの形状で分かる。マクラミンは撮影の前に移動を頼んだものの結局間に合わず写り込んでしまった。有名となった「LMW 281F」のナンバープレートは何回も盗まれたが、彼はこのクルマを1986年にオークションで競売にかける。
このジャケットで必ず話題になるナンバープレートの番号「28IF」は、アメリカ中西部の学生新聞やラジオ局が発生源と言われる「ポール死亡説」の根拠となり、「もし生きていれば28才」と解釈された。しかし実際には「281」は数字で、Fは登録年次を表す記号、ポールの動静が最後に確認されているのは29才だ。要は全くのこじつけだ。
「ビートルズ」。世界で最も愛され、現在のロック、ポピュラーミュージックの規範となった偉大なグループ。ビートルズを語らずしてポピュラー音楽を理解することはできない。少なくともある世代から上の音楽ファンにとってはビートルズはすべての音楽のベースだ。
ビートルズが武道館に来たときは小学校2年だった。テレビニュースで羽田から移動するクルマと「ミスター・ムーンライト」を聴いた。解散とソロ活動の開始はちょうど中学に入った年、音楽的感受性が最も豊かな時期だ。
「28IF」のポール死亡説は10代前半には知っていた。輝かしい10代。自分にとっても前途は洋々と感じられただろう。しかし、改めて今日ジャケットを見て戦慄に襲われた。そうか、彼らは20代にすべての仕事をやり遂げたのか。やはり彼らは比肩するもののない天才なのだ。噂話のネタを提供しているに過ぎない、と思っていたフォルクスワーゲンは、実は天才的仕事のマイルストーンを知らしめる偉大なモニュメントだったのだ。やはりここでもクルマは多くを語っていた。
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