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2019-10-04

イゴール・プロチャカトリオ / EASY ROUTE (2008年)

セアト・SEAT 850

Igor Prochazka Trio / Easy Route
Igor Prochazka (pf) Christian Perez (b) Federico Marini (ds)

何といってもタイトルが良い。「イージー・ルート」。「走りやすい道」なのか、それとも「安易な道」なのか。写真の黄色いセアト850でひたすら走るのだろう。彼らはどんな道を行くのか。良く見るとナンバープレートがIPT 1、バンド名のイニシャルだ。これは彼らのファーストアルバムだ。 思い入れが深いのか、それとも 単に紙でも貼ったのか。インナースリーブの写真ではセアトのエンブレムが「JAZZ」に変えられている。

チェコ出身、スペインで活動する若手ジャズピアニスト、イゴール・プロチャカのトリオ、2008年のデビューアルバム。残念ながら現在は廃盤で手に入らない。しかしダウンロード販売やSpotifyなどのストリーミングで聞くことができる。Amazon music HDではロスレスストリーミングのCDクォリティーで楽しめる。

ストレートなジャズトリオの演奏。全曲がオリジナルで1曲を除きリーダーのイゴールの作品。メロディが美しい印象的な曲にあふれ、才能の豊かさを感じる。モダンジャズの伝統的なスタイルに立ちながら、新しさが程よくバランスした秀作。このアルバムは発売当初はクルマが印象的な「カージャケアルバム」として話題になったが、実は音質も素晴らしく、高音質の再生装置で聞くとリアリティある瑞々しいサウンドが楽しめる。オーディオチェックディスクとしても秀逸だ。1曲目「Hope」5曲目「Spinning」は出色の出来だ。

録音はスペイン、マドリッド。写真のセアト850はイゴールの知人のクルマらしい。セアト社は大戦後のフランコ政権下でイタリア・フィアット社の出資で作られた国策企業でスペイン最大の自動車メーカー、いわばスペインのFIATだ。だから「SEAT」なのかと思ったら綴りの表す意味は違い、SEATのSはソシエダ~会社の意味。ちなみにFIATのFはファブリカ~工場だ。セアトは現在フィアットを離れてフォルクスワーゲンの傘下で、日本では全く馴染みのないメーカーだがスペインでは国民車として街にあふれている。オリジナルの小型車「セアト・イビザ」はジウジアーロや、アルファ156のダ・シルバによるデザインが秀逸で日本でも話題になった。

このセアト850はフィアット850と同一モデルで、実にこれはダンテ・ジアゴーザ設計の由緒あるリアエンジン車で、このモデルのダウンサイズ版が有名なチンクエチェント500~ルパン3世が乗っているやつだ。現在日本でも大人気の3代目FIAT500と血縁的にはつながっているのだ。

アルバムのカバー写真の撮影はイゴール自身。演奏時間は全部で35分。何というか手作り感あふれるコンパクトな作品だが、たいへん密度の濃い秀作だ。ビル・エバンスやキース・ジャレットといったジャズジャイアントのピアノトリオも素晴らしいが、たまにはこういう切れ味のよい作品でリフレッシュしてみるのも楽しい。

エンブレムが「JAZZ」になっている
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