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2019-10-11

ビリー・ジョエル/STREETLIFE SERENADE (1974年)

右: シボレー・カマロ(第2世代 1970~1981)
左: シボレー・シェビーバン(第2世代 1967~1970)

昔のビリージョエルは良かった、と思う。「ストレンジャー」で世界的に有名になる前のビリー・ジョエルだ。繊細なメロディー、ちょっとしたフレーズにちりばめられた驚くようなひらめき、独特のセンス。何度聞いても新鮮だ。ひたむきでナイーブ。豊かな才能があふれている。このアルバムはそんな時代の作品だ。

彼は「ストレンジャー」で大ブレークする前に4枚のアルバムをリリースしている。このアルバムは3番目の作品だが、のちのインタビューでは制作の時間がなくこのアルバムは嫌いだ、と語っている。すべてが生焼け(ハーフ・ベイクド)だ、と。本人がダメと言っても素晴らしい作品、というのは世の中にいくらでもあるが、 やはり地味で目立ちにくいアルバムということはあるのだろう、当時日本での発売は見送られたという事実がある。

ビリー・ジョエルといえばニューヨーク、というイメージが強いが、一時カリフォルニアに住んでいた時期もある。このアルバムはノースハリウッドのスタジオで録音されている。70年代のアメリカ中西部の雰囲気あふれるアルバムアートは彼の求めに応じて日系のアーティスト、ブレイン-ハギワラ氏が描いた作品だ。ロサンゼルス近郊のサン・ペテロという町の風景で、なんと、この絵に描かれているホテルは今でも現存して営業しているという。

ホテルの前に停まっている明るいオレンジ色の第2世代のシボレー・カマロは1970年に登場し、まさにこの時代をよく表わすクルマだ。期せずして左側に佇むブルーのバンもシボレーで、こちらはサイドマーカーが描かれていないことより1967年の最初期の2代目シェビー・バンであろう。働くクルマだ。そういえば彼は”Movin’ out”でサージェント・オレイリーはシェビーをキャデラッカに乗り換えた、、と叫んだ。シボレーはありふれたクルマだ。

ビリージョエルはハギワラ氏にエドワード・ホッパー風の中西部の街並みの絵を求めたという。ありふれたシボレーが脇役となるこの絵は実に良くアルバムの雰囲気を表し、できることなら描かれた街をぶらりと訪ねてみたいと思う。

この作品は日本公演の成功のあとにやっと国内発売された忘れられた作品、といっても良いかもしれない。しかし、キラリと光る静かな佳曲にあふれ、今でも時々思い出したように聞く。1曲目、タイトルナンバー「Streetlife Serenade」は一つの短いフレーズにくりかえし言葉を載せていく不思議な曲で、まるで俳句か短歌の世界を想わせる独特な世界観だ。最後から2番目の曲「Souvenir」は彼の曲では一番短い作品。夢みるような美しいバラードだ。

このアルバムはSpotifyなど音楽配信等で全曲聞くことができるが、アマゾンミュージックHDのハイレゾリマスターのストリーミングは驚くほど音質が良く、改めて聞き入ってしまった。

アルバムジャケットのホテルはロサンゼルス郊外のサン・ペテロ市に現存し、ホテル・カブリオの名前で今も営業している
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