ピーター・ガブリエル/PETER GABRIEL(1977年)
ランチア・フラヴィア(Flavia)シリーズ1・クーペ(1963~65)
ジェネシスを脱退したピーター・ガブリエルは2年後の1977年にソロアルバムを発表する。その後リリースする3枚のアルバムはすべてタイトルが同じで「Peter Gabriel」。彼は雑誌が毎号同じタイトルで発売されているように自分のアルバムは同じ名前でリリースしたい、と考えたがレコード会社は大慌てだ。やむを得ず1~4の番号で呼んだり、ジャケット写真で区別したりした。ファーストはその写真より通称「Car」と呼ばれることが多い。
ピーター・ガブリエルのファースト・ソロ・アルバム通称「Car」。深みのある独特のブルーのカラーリングのクルマと大胆な構図。印象的なアルバムアートだ。彼はクルマの中で眠っているのか、瞑想しているのか、もしかしたら生きていないのではないか。当時の彼の心情が反映されているのであろうか。見る人により様々なイメージを呼び起こす見事な作品だ。
クルマはイタリア・ランチアのフラヴィア・シリーズ1クーペ。ジャケット・デザインはイギリスのデザイン集団ヒプノニス。ヒプノニスはピンクフロイドのAtom Heart Mother(原子心母)やThe Dark Side Of The Moon(狂気)をはじめ、レッドツェッペリン、イエス、10ccなどのイギリス系の数多くのアルバムアートワークで知られている。このジャケットも傑作だ。
ジャケットのフラヴィアはヒプノニスのメンバー、ストーム・ソーガーソンが所有するものだそうだ。撮影は何とモノクロームで、あとから着色されたという。クルマにホースで水をかけ、注意深く撮影され、ガラスの反射や水滴は丁寧に作り込まれている。イギリス向の右ハンドル車の助手席にフォーカスしているため、ワイパーは上で止めるか取り外せば画面には映り込まない。
着色されたカラーは実に美しく、アルミのサッシ部分とのコントラストが素晴らしい。写真からはモダンなクルマのように見えるが実際のフラヴィア・シリーズ1はジャケットから受ける印象よりずっとクラシカルなスタイルだ。
ランチア・フラヴィアは1960年にトリノショーで発表され、エンジンは1500cc。クーペのデザインはピニンファリーナとヴィニャーレ。ザガートのバージョンも有名だ。車名はローマのトリエステからダルマチアへの道に由来している。
ランチアには同時期に名前がとても良く似ているフルヴィア(Fulvia)というクルマがありややこしい。70年代にモータースポーツで活躍したのはこちらだ。1963年にデビュー。車名はトルトーナかトリノまで続くVia Fulviaにちなんで名付けられている。最近クレージー・ケン・バンドの「Tampopo」のミュージックビデオに登場する印象的なクルマもこちらだ。
このアルバムはジェネシスを飛び出したピーター・ガブリエルの新境地を遺憾なく表した名作だ。ノンジャンルではあるがポップな雰囲気を兼ね備えている。ミュージックシーンに偉大な足跡を残す彼の新たな出発点として歴史に残る作品だ。2曲目「Solsbury Hill」は後年のハワードジョーンズ1983年のデビュー曲「New Songs」とそっくりだ。
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