アル・ジャロウ/ L IS FOR LOVER (1986年)
ダッジBシリーズピックアップ(1948~1953)
もう5年になる。2014年11月、アル・ジャロウのブルーノート東京公演に行った。76歳でこの世を去る2年前だ。支えがないと一人で歩くことが難しい姿に驚く。彼がこのような状態にあることは知らなかった。声はしわがれ、ステージを自由に動くことができない。冒頭からフレンドリーで愛にあふれる語り口で私たちに話しかけてくれるが、なかなか歌がはじまらない。歌こそが天職の彼にとって、きっとつらい状況なのかと思う。しかし一度演奏がはじまるとパーフェクトだ。彼には音楽の神が宿っている。
一体どうしたらこんな絵になるんだ、というジャケット写真。アル・ジャロウの全盛期、1986年のアルバム「L is for Lovers」。クルマは1950年代の古いダッジのピックアップ。このクルマにはとても意味があり、同時代のフォードやシボレーのピックアップだとこの絵にならない。他車は先進的なシャープなエッジのモダンなサイドスクリーンを採用しはじめたのに対し、丸みを残したダッジの雰囲気がこの写真のモチーフであり、一度見たら忘れることはできない要素なのだ。
このアルバムは、ナイル・ロジャースのプロデュースで注目を集めた。近年Daft Punk「Get Lucky」で再ブレークを果たしたナイル・ロジャースだが、このころは大物アーティストのプロデュースで引っ張りだこだった。このアルバムは意外にもアコースティックな香りが強く、アル・ジャロウの魅力がとても良く引き出されている。
この時代はデジタルレコーディングの初期の段階で、ジャケットにはオール・ソニー・イクイプメントでフルデジタル録音されている、と誇らしげにクレジットされていて、これがまた時代を感じさせる。しかし、いかにも当時のデジタルっぽい、少し刺激のある硬めのサウンドで少し残念。こういう作品こそデジタル・リマスターで再発してほしい、と思ったりする。
USAフォーアフリカからもうすぐ35年。彼はもういない。ブルーノートで最後に渾身の力をこめて歌ってくれた We’re in this love togetherは絶対に忘れない。
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