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2020-07-19

ハレド / KENZA (1999年)

メルセデス 300SEL (W108) (1965~72)

メルセデスの後部座席からまさに降りようとしているアルジェリアの代表的歌手ハレド。アルジェリアは地中海を隔ててフランスの対岸にあるアフリカ最大の国だ。この国の音楽はライと呼ばれ、世界的に広く紹介されている。1920年代に港町でベトウィンの歌謡をルーツに生まれた音楽で、かつての宗主国であるフランスの影響も受けている。敷居の高いアラブ~アフリカ系の音楽の中ではポピュラーなジャンルだ。このアルバムはロバート・ディメリー著の「死ぬまでに聴きたいアルバム1001枚」で知った。ハレドの作品はストリーミングで聴くことができる。

このアルバムを再生するとまわりは一瞬で北アフリカの世界に一変する。歌詞はアラビア語とフランス語で全く分からないが音楽の力は大きい。タイトルのKENZAは次女の名前、アラビア語で「宝物」という意味だそうだ。このアルバムの曲はすべて完成度が高く音楽性が高いが、イスラエルの女性歌手ノアとデュエットをしたジョン・レノンの「イマジン」がリリース当時話題を集めた。アラビア語で歌われるイマジンは衝撃的で、日本の演歌にも通じる節回しにはびっくりだが、アレンジが平凡でちょっと残念。カラオケみたいになってしまった。余計な注文かもしれないが。

このアルバムの録音とミックスはパリ。オーケストラセッションはカイロ。録音の一部ニューヨークでも行われたようだ。ハレドはパリに移住しているという。このジャケット写真はパリで撮影されたのだろうか。クルマは1960年代後半のメルセデスのセダン300SE。現在のSクラスの源流の高級車だ。クルマが選ばれた理由や後部座席から降りようとする姿の撮影意図を探ることはできないが、彼の自然な表情をとらえた見事なポートレートだ。

私たち日本人にとって北アフリカは遠い。そしてその音楽は馴染みが薄いが、いくつかの小さなレコード会社が継続的に日本語版のCDを販売している。このアルバムも日本語解説付きのものが容易に手に入る。恐るべしである。ハレルの音楽は失業や食料不足から起きた1988年のアルジェリア10月暴動のきっかけになったと言われている。その結果国民寄りの憲法改正が行われ、若者のイスラム回帰をもたらしたという。音楽の持つ力大きい。彼の地の音楽に耳を傾けるのは価値あることだろう。

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