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2019-11-01

ボブ・ディラン/ THE FREEWHEELIN’ (1963年)

フォルクスワーゲン・タイプ2・ T1

1963年.寒い2月の午後。ニューヨークのウェスト・ヴィレッジ・ジョーンズストリートを歩くボブ・ディランとズーズ・ロトロ。当時2人はこの近くのアパートメントに住んでいた。彼女は2011年に67歳でこの世を去る。撮影は写真家ドン・ハンスタイン。この作品は彼の代表作となる。

60年、70年代初頭のアメリカ映画、たとえばサンフランシスコを舞台とする「ダーティー・ハリー」では片側5車線や6車線もあるフリーウェイを実に多くのフォルクスワーゲンが走っている。ゴールデンゲートブリッジのロングショットでは橋の交通のほとんどビートルで埋めつくされているという感じだ。世界を変えたボブ・ディランのあまりにも有名なこのアルバムについて語るのは気が進まないが、もしかしたらクルマの観点であれば許されるかもしれない。このアルバムジャケットの一つのアイキャッチは左側の青色のフォルクスワーゲンだ。

フォルクスワーゲン・ビートルはそれまでのアメリカの保守的な価値観に対するアンチテーゼとして60年代に恐るべき勢いで受け入れられていく。これは思想であり、ライフスタイルの選択であり、アメリカ文化の一側面となる。このクルマを選ぶこと、に大きな意味とメッセージがあるのだ。

ジャケットのクルマは「ビートル」と共通のプラットフォームを用いた商用の「タイプ2」通称トランスポーターで、第一世代のT1からスタートして最終的には「カラベル」で知られる2003年の第五世代T5まで続く。写真のトランスポーターは 1950年~67年に製造されたT1。アメリカの交通法に適合させてバンパー高をかさ上げしたダブルバンパー仕様だ。もしこのクルマがもしフォードやシボレーだったら、、、ふとこんなことを想う。

面積的に多くを占める右側の白いクルマは何か。側面だけを写し込まれ匿名性が高い。これは意図的なのか、それとも写真表現上の必然なのか。このクルマはそのシルエットよりシボレー・デラックス・フリートラインの2ドアクーペと判断した。アウトテイクの写真に見えるディティールよりこれは1951年型と断定できる。写真撮影時にはすでに12年落ちの、少し古めのクルマ。これはシボレーの戦後最初のモデルで、当時シボレーは2位のプリムス、3位のフォードを大きく引き離して圧倒的なシェアを誇っていた。グリニッジビレッジの風景にすっと馴染む、ありふれたちょっと古い平凡なクルマ。クルマはそこにあるだけで実に多くのストーリーを語る。

もはやボブ・ディランを知らない人々も多い。このアルバムが世界に与えた衝撃も。2016年のノーベル文学賞は新たな衝撃であった。ボブディラン,78歳。来年2020年に東京と大阪で14公演を行うという。

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