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2020-04-11

セロニアス・モンク / MONK’S MUSIC (1957年)

J.C.Penny /Rex 90 Jet Wagon

セロニアス・モンクのアルバムジャケットは印象的なものが多い。リバーサイドレーベルに残したこの名作、ジャケット写真の下に写真家ポール・ウェラーとデザイナー ポール・ビーコンの名前が見える。ブルーノートにはフランシス・ウルフとリー・マイルスのチームがある。どちらも50年代~60年代のジャズ・シーンの雰囲気を決定づけるすばらしい仕事をした。「なんだ、これは!」一度見たら忘れ得ないこの写真。それはまたモンクの音楽が持つ不思議な魅力を顕している。

アメリカのホームドラマや映画などでよく登場するこの赤いワゴン。郊外の一軒家に住む平凡な家庭で子供たちが遊ぶ姿が目に浮かぶ。ラジオ・フライヤー社のレッドワゴンは手を挟んだり傷つけない設計や安全性の高い塗料で圧倒的なシェアを誇り、ワゴンといえばレッド・フライヤーと言われているがモンクが乗っているのは百貨店J.C.Pennyが販売したオリジナルのRex90 Jet wagon。モダンジャズを代表するアルバムだけあって多方面で議論が行き届き、このワゴンの型番も知ることができた。

スーツにサングラス。格子柄のハンチング。左手にはタバコ。右手にはペン、アタッシュケースの上には楽譜。完璧に決まった大人のミュージシャンがこどものおもちゃに乗る。これを見る人は、はじめは当惑し、やがてその意味に思いを馳せる。彼の音楽そのものを連想させる不思議な不調和感、不協和感。あるいは自分はどんな場所でも気の向くまま音楽を作るという彼のスタイル。イマジネーションは膨らむ。

モンク自身はジャケットについて語っていない。しかし伝記作家のガブリエル=ソリスはその著書の中で、この写真は彼の音楽を子供の作品のようだという批評家に対するユーモアあふれる反論だと述べている。この意見に賛同だ。どうだ。俺は子供だ!そしてこれが俺の音楽(Monk`s Music)だ。モンクの不思議なピアノは、時に音数(おとかず)が異様に少なくまるで子供の演奏のように聞こえる。はじめて聞く人々はその深淵をすぐには理解できない。しかし引き込まれると抜けられなくなる。目を見張るようなピアノテクニックとは対極の世界だ。

おもちゃのワゴン。モンクはこれで大人の世界を表現した。これは立派なクルマだ。アメリカの百貨店 J.C.PENNYがたくさん販売したワゴン。回を重ねてきたこのエッセイで唯一、年式が特定できないクルマとなった。

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