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2019-11-29

矢沢永吉 / I LOVE YOU,OK(1975年)

フォード・リンカーン・コンチネンタル 第4世代 Phase 3

矢沢永吉。70歳を過ぎて最近テレビで良く見かける。実に深みのある率直で楽しい語り口。こういう人だったのか、いや、それともこういう感じになったのだろうか。

今まで完全に守備範囲外だった。ヒット曲以外は聞くことが無かった。これは仕方ない。今回はいつもコメントを寄せて頂く北海道の久保田さんから送られてきた一枚の写真がきっかけとなった。I LOVE YOU OK。1975年。私でも知っている名バラードがタイトルのソロ・デビュー・アルバム。不覚にもはじめてジャケットを見た。そして衝撃を受けた。これはカー・ジャケアルバムの最良の一枚だ。久保田さんは大の矢沢ファンの得意先と矢沢縛りでカラオケを歌ったりしたこともあるそうだ。

この写真にも驚いたが、手に入れたLPレコードのサウンドにはそれ以上に驚いた。時代を超えた上質なサウンドだ。低音は薄いがヴォーカルが実に表情豊かなウォームトーン。ちょうど時代を席巻したアメリカ・ウエストコースト・サウンドそのものだ。現代にも全く違和感なく通じる。名アルバムだ。

矢沢永吉は伝説の人であるが、自らも実に多くを語り、それが活字に残っている。わずか2年半でキャロルを解散し、その印税をすべてつぎ込んみCBSソニーから借金もあわせて単身アメリカに渡り制作したのがこのアルバムだ。キャロル時代の人脈はすべて切る。プロデュース、アレンジからサイドミュージシャン、レコーディングエンジニアまですべて腕利きのアメリカ人。かつての仲間は一切入れない。当時のウェストコースト・サウンドのど真ん中のハリウッドのA&Mスタジオで録音を行う。

A&Mスタジオはチャップリンのスタジオがあった場所にハープ・アルバート(A)とモス・グリーン(M)が設立した広大なスタジオで、映画音楽用の大きなオーケストラホールからボーカル用の小さなスタジオまである。A&Mレーベルを代表するカーペンターズの「Close to you」をはじめキャロルキングの「Tapestry」など数多くの歴史的アルバムはここで録音された。極めつけは1986年のUSA FOR AFRICA / We are the world。出演アーティストがここに集結した。さすが永ちゃん。一番最初の録音にこういう素晴らしいスタジオを選ぶ。

全12曲。セクシーキャット、クルマ、酒、金、アスファルトに消えた奴、、、青春のモニュメントというか、熱い思いがアルバム全体に渦巻いている。当時の多くの若者の心をとらえたことは間違いないだろう、と深くうなずく(当時私も若者だったのだが)

1978年、インタビュアにまだ駆け出しに近い糸井重里を起用して一大ベストセラーとなった自伝「成り上がり」には、人の曲は聞かない。自分で買ったアルバムは4枚だけ。ひとつはビートルズの「Rubber Soul」、もう一つは井上陽水の「心もよう」。なぜ150万枚売れたか研究したかった、と書かれている。初めて聞くエピソードに驚くが、なるほど、とも思う。音楽の立ち位置はきわめて常識的だ。なおかつ一級のエンターテインメント志向。これが矢沢永吉の仕事なのだ。すべてに完全徹底。一流をめざす。このアルバムにかけたお金、情熱。彼は後世残る価値のあるものを作り出した。

ジャケットに登場するクルマはすでに検証が行き届いている。本人所有の4代目フォード・リンカーン・コンチネンタル(1961~1969年)アメリカの成功したミュージシャンが「どうだ!」と登場させるのはたいていGMキャデラック。歴史的にもステータス的にキャデラックの方が上だ。しかし両車とも大統領専用車に採用される。共和党はキャデラック、などということはなく適宜入れ替わるようだが、1963年にダラスでケネディー大統領が銃撃された時のクルマはまさに彼が所有するのと同年代リンカーン・コンチネンタル・コンバーチブルだ。

なぜリンカーンなのか?特にこだわって選んだわけではなく、大きなアメリカ車を手にいれたかったから、ということらしい。このクルマはキャロル時代に購入したものだがそれ以前はスバル360に乗っていたという話がある。このリンカーンは九州のその筋から格安で買ったという話もある。ほんとうにエピソードに尽きない。

撮影場所は渋谷センター街のゲームセンター「ゲームファンタジア」(現在はアドアーズ渋谷店)。アルバムの 初回特典のポスターや数多いアウト・テイク・ショットよりクルマと撮影場所の特定は容易だ。E.YAZAWAのロゴはこのアルバムと同時発売のシングルで初めて使われた。

まさに時を経て矢沢永吉の魅力に少しずつ触れている。最近このアルバムは毎日聞いている。Spotifyやアマゾン・ミュージックなどのサブスクリプション配信では彼のほぼ全作品をオンラインで高音質で聞くことができる。良い時代になった。

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