ユサフ・イスラム(キャット・スティーブンス)/ ROAD SINGER (2009年)
フォルクスワーゲン・タイプ2 (T1) 1950~67年
父親はギリシア系キブロス人。母親はスェーデン人。ロンドンに生まれ、異邦人として育つ。キャット・スティーブンス。彼はカトリック教徒だった。
1970年代の前半、キャット・スティーブンスは大活躍した。「ワイルド・ワールド」「ムーン・シャドウ」「ピース・トレイン」、そしてリック・ウェイクマンのピアノが忘れ得ない「モーニング・ハズ・ブロークン」。ちょうど音楽的感受性が一番豊かな中学生の頃、ラジオから流れるメロディアスで魅力あふれる楽曲は一瞬で心をとらえ、深く胸に刻まれた。
6,000万枚以上アルバムが売れた絶頂期、彼はイスラム教へ改宗し、名前をユサフ・イスラムに改める。マリブ島で事故に会い、臨死体験で救いを求めたのが直接的きっかけというが、兄からもらったコーランを読んで強く影響を受けていた。その後「悪魔の詩」のサルマン・ラシュディの処断を支持する発言が問題になり、彼はアメリカの音楽界からは消える。
表現への思いは断ちがたかったのだろうか。28年のブランクを経て2006年に新たなアルバムを出す。その2年後に発売されたのがこのアルバムだ。かつてのキャット・スティーブンスの世界が戻ってきた。魅力あふれるボーカルはかつての雰囲気そのままに深みを増した。ほとんどの曲はオーバーダビングのない一発撮りだ。このアルバムのタイトルでもある重要曲「ROAD SINGER」はファーストテイクだと言う。鮮度の高いリアリティーのあるサウンドが素晴らしい。
付属のDVDにはフォルクスワーゲン・タイプ2をレストアして「ROAD SIINGER」が音楽を届けるミニ・バス改修する様子が楽しく記録されている。完成したワーゲン・バスはタイトル曲「ROAD SINGER」のミュージックビデオで大活躍する。フォルクスワーゲン・ビートルのエンジンとサスペンションパーツを流用して作られたタイプ2ワゴンは1950年に登場したが、アメリカ仕様のダブルバンパーが装着されているので50年代後半以降、60年代のモデルであろう。
キャット・スティーブンスはこのアルバムの後にも継続的にアルバムをリリースしているが、そのいずれも素晴らしい内容だ。宗教とのかかわりが状況を複雑にしているのだろか、かつのように話題にのぼることは少ないが、心に染みる音楽として注目したい。彼の作品は初期のものから最新作までストリーミングで聴くことができる。
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