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2020-03-08

ブルース・スプリングスティーン/ CHAPTER AND VERSE (2016年)

シボレー・コルベット(初代) C1 1959年モデル

「チャプター&ヴァース~章と節」、転じて「出典」。2016年に出版したブルース・スプリングスティーンの自伝「Born to Run」にあわせ、その「出典」としてリリースされた自叙伝としてのアルバムだ。

このジャケット写真には「コルベット・ウィンター」という名前がついている。良く見るとロードサイドに見えるのは雪だ。1978年、生まれ故郷ニュージャージー州のハドン・フィールドで撮影された。アルバム「明日なき暴走~Born to Run」が大ヒットして次のアルバム「闇に吠える街~ Darkness on the Edge of Town 」をリリースする頃だ。

撮影したのはブルース・スプリングスティーンや、同じくニュージャージー出身のパティー・スミスのアルバムで知られる写真家フランコ・ステファンコ( Frank Stefanko )。ハドン・フィールドのフランコの家の近くで撮影された。フィラデルフィアからクルマで25分ほどのところだ。ブルース・スプリングスティーンは毎回違うクルマでハドン・フィールドに来たという。ある日は古いシボレーのピックアップ、そしてこの日はコルベットC1だ。彼はこのアメリカンクラシックを愛し、ルート9やニュージャージーターンパイクを我が物顔で走っていたという。

アルバム「Chapter and Verse」の1曲目は驚愕だ。これまでリリースされることがなかった学生時代の自主製作音源「Baby I」の初公開。デビュー前の1966年16歳の彼の人生初のレコーディングだ。アメリカンオールディーズとビートルズを掛け合わせたようた、実に微笑ましい作品だが確かな演奏技量とパッションが光る。ここからオリジナリティーを育み短期間に成長していく様がこのアルバムで手に取るように分かる。彼の音楽人生を追体験できるのだ。最後のトラックは2012年のアルバム「Wrecking Ball」のタイトル曲で締めくくられる。

このアルバムと、出版された自伝の表紙にも選ばれた冬のコルベットの写真は、スプリングスティーン自らがセレクトした。襟を立てたジャケット、アルパチーノ風のヘアスタイル、撮影時点で20年落ちのクラシック・コルベット。カメラマン、フランコ・ステファンコによるとこの日はとても寒かったそうだ。

言うまでもなくアメリカは戦前から世界最大の自動車生産国であったが、実は「スポーツカー」というジャンルのクルマは存在していなかった。第二次大戦でヨーロッパに渡った軍関係者が触れたMG、ジャガー、トライアンフ、オースティン・ヒーレーといったブリティッシュスポーツに刺激を受けて、初めて登場した純アメリカン製2座・オープン・スポーツカーがGMのコルベットだ。アメリカ人にとってはとても意味のあるクルマだ。 以前に紹介したボブ・シーガーのジャケットのクルマもこのモデルと全く同じコルベットC1だ。初代コルベットはC1と呼ばれることが多い

1954年のデビュー当初のコルベットC1はヘッドライトは2灯式で、世界初の試みの全FRP製のモダンなボディーを載せた意欲的なモデルであったが、慣れないFRPボディーの生産に手間取っているいる間に同じくアメリカンスポーツのコンセプトでデビューしたフォード・サンダーバードの大成功で劣勢を余儀なくされていた。しかしリファインを重ね、精悍な4灯式ヘッドライトになった58年のマイナーチェンジで一気に人気が出た。このコルベットはボンネットのエアアウトレットが廃止された1959年型か60年型だ。彼はこのクルマで音楽を聴きながら曲の構想を練ったという。ここでもクルマは静かに多くの物語を語っている。

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